「噂を聞いたの」

彼女が村の家々を眺めながら呟いた。

「……どんな?」

彼女が哀しげにふっと目を伏せたから。

私はその噂がどんなものなのかすぐに解ってしまった。

「死人を食らう化け物がいるって」

彼女の垂れた黒髪に半月が映っている。

「それは、私のこと?」

彼女は目を伏せたまま私に問うた。

月が雲に隠れて光がひどく薄まった。

「君じゃないよ。君はそんなことしない」

私は彼女の味方でいることしかできなかった。

村人たちは彼女を恐れ、疎んでいた。

私は、彼女が私以外の人間に近づいているのを見たことがない。

「人間といるのは辛い」

彼女はたまにそんなことを言っていた。