風もないのに、簾はふわりと浮かんだ。

置かれるように着水した簾が、波紋をつくる。

覆いを失ったそこには、

「何も、ない……」

大八車の荷台は、ただ板が晒されているだけだった。

女は変わりなく僕を見つめた。
そして微笑んで言った。
ありがとう、と。

「どうして?」
女が大切だと言っていたものは、ここにはない。

「違うの」

僕の質問にやんわりと首を振った女は、腕を伸ばして僕の手に触れた。触れたように感じた。



――最後に、見付けてくれてありがとう。

「さよなら」



たったそれだけの言葉を残して、女は霞のように消えていった。