水底に水草が這っているのか、湖の水は澄んだ緑色に見えた。

風に水面が揺れ、星影が煌めく。

女は引いていた大八車を下ろした。
僕も同じくそれから手を放した。



「……ありがとう、運んでくれて」

僕に背を向けたまま、女が言った。

女の声は細々としていて、僕は最初、幻かと思った。

でも、それは確かに、僕に向けた言葉だった。

女は僕に気付いていたんだ。ずっと。


「……何を、運んでいるの」
僕が尋ねると、女は音もなく振り返った。

「大切なもの」
優しげな眼差しを向けながら。