物理の時間になると、長い白衣を着たセンセイは、私たちの教室に来るために準備室を出る。
小脇に厚い教科書を抱えて。胸ポケットから出した眼鏡を、少し不器用に片手で掛けて。
「お、平山。ちょうど良かった。これ運ぶの手伝えるか」
「は…はいっ」
嬉しそうに手招きをして私を呼ぶセンセイ。
その様子はさり気なく大人びていて、いたずらに笑う仕草は、私をドキドキさせた。
でも、こうして通り掛ったのは偶然なんかじゃないんだよ。
私がセンセイにとって丁度いいタイミングになるように、いつもここに来てるんだから。
そんなこと、絶対気付くはずもないだろうけど。
「毎回助かるよ。ありがとうな、平山」
「…はい」
だって、私がセンセイを好きになるなんて、誰にも想像できるわけないから。
「さすが優等生。気が利くよ」
「……」

