亮平にも、俺のことに関してだけ、記憶が無いと教えられたようだ。

「相馬さん、ご自分の事、お話されてはどうでしょうか?」

医者にそう言われても、俺は首を横に振るうだけだった。

「辛いお気持ちもわかりますが、これは原田さんのためでもあり、君自身のためでもあるんだ。」

「…いえッ。これで、これで良いんです。お、俺は、亮平の中から排除されても…平気です。そっちのほうが…、亮平も、幸せに…なれると思うから。」

涙は頬を伝って、病院の廊下をぬらす。
どんなに歯を食い縛っても、どんなに唇をかみ締めても、涙は止まらない。
…泣かないって、決めたのに。

「…俺が、行きます。」

順平はそう言って、俺の頭を軽くなでて病室へ入っていった。
俺のためにしてくれているのはわかっていた。でも、それは嬉しくなかった。
余計なことはして欲しくない。
…これでいいんだ。これでハッピーエンド。

「新見先生、コレ、出してください。…亮平を、幸せにできるのは、俺じゃないっスから。」

俺は、新見に渡された結婚届を新見に叩きつけ、走って逃げた。