『雨乞い』


 この春の就職も決まって、そろそろバイトを辞めるという時、お店に新しい店長さんが転属して来た。

 真面目な仕事ぶりと隙のない笑顔とノリがよくて皮肉屋で意地悪なところがあって賛否両論だったけど、仕事はできるしみんなともすぐに打ち解けて上手くやっていた。私も話しやすくてやりやすかったので仲良く仕事をしていた。

 私がくだらない冗談を言うと、店長はそれに軽口叩いたり、意地悪なことを言ったりして、お互い何だか気が合うふうでいたので、バイト仲間にも
「店長と漫才コンビみたいに息合ってるよね」
と言われて、そこにいた店長に
「からかってもへこまないからいじめがいがある」
と言われたから思いっ切り平手で叩き、店長が痛がっているのを見て私は友達とゲラゲラ笑った。

 何が楽しかったのかはよく判らない。店長が私のした事にデカいリアクションで返してくれたからなのかもしれないし、友達に私たちのやり取りがウケたからかも知れないし、店長と息が合ってるって言われたことが嬉しかったからかもしれないし、


店長に触れられたからかもしれない。


 ある日店長が指輪をしているのを見つけた。

 左手の薬指だったので
「店長、それ恋人とのペアリングですか?」
とニヤニヤしながら聞くと、うん、近々結婚するんだ、と、バツが悪そうに笑っていた。

 結婚、という言葉を耳にした時、小さな刺のようなものが気持を引っ掻いたような、店長の笑顔が曇ったような気がしたけど、仕事に埋もれて何となく消えていった。

 その後もお祭好きの私はその結婚式のことをいろいろ聞いたり、婚約者の写真を無理やり見せてもらったり、式で出来もしないプランを提案して断られて、
「結婚式の日に雨乞いして雨を降らせてやる。野外ウエディングでみんなずぶ濡れになるがいい!」
と呪いの言葉を吐いて、
「絶対やめてくれ」
と釘を刺されたりと、いつもの賑やかなやり取りを繰り返しながら日々は穏やかに春に向かっていった。