寝返りをうてば無防備なあなたの寝顔が近くにある。

 放り出された左手にはまるシンプルな銀の指輪。
 同じ形の私の指輪をそこにそっと重ねる。かちんと固く冷たい音を立ててそれは重なる。

 まるで鎖のない手錠のようだ。

 望んで結ばれた二人の絆は錠こそあれ鎖がない。傍にいる事も離れる事も自由な二人はお互いを信じる事でしか結ばれる術はないのだ。たとえ同じ指輪をはめていても。

 あなたは悪くないの。聞き取れないほど小さい声で私はあなたの寝顔に言う。ただ、私が自信がないだけ。あなたが私を思う気持ちに。

 あなたを愛しすぎて不安になる。あなたに愛されたくて不安になる。


 いっそ見限ってくれたらと、思うほどに。


《おしまい》