携帯電話をカバンにしまうと走って駐輪場へ行き、自転車に乗った。正門へ行けば勇太と合流した。
「お待たせ!暗くなってきたし、さっさと行こうか」
「あの…村瀬さん」
「何?」
「自転車、俺が漕ぐよ。村瀬さんは後ろに乗って」
「えっ?」
驚きつつあたりを見回すと、大勢の生徒が私達を食い入るように見ていた。他の部も、部活が終わったらしい。
「バス停3つ分の距離って、自転車で走ったら結構あるだろ。次のバスが来るまで大分時間があるんだ。早く帰りたいから一緒に乗っていこう」
「で、でも、疲れているでしょ?」
「大丈夫。体力には自信があるんだ」
するとふいに、勇太は自転車のハンドルを握り、私から奪った。カゴにバドミントンのラケットケースやカバンを入れれば、英国紳士のように右手で優雅に荷台を指した。
「どうぞお乗り下さいませ、村瀬様。駅までお送りしましょう」
「はあ…じゃあ、お願いします」
断り切れず、女の子らしくまたがずに荷台に腰掛けた。予想外の展開にドキドキだ。さらに追い打ちをかけるよう、右の視界に勇太の広い背中が現れた。風に乗って、彼のつけたシトラス系コロンの良い香りがする。いや、体温さえ感じる事ができそうだ。
「しっかりつかまって。じゃないと、転げ落ちるよ」
「へっ?あ、うん!」
おそるおそる勇太が履いているジャージのウエスト部分をつかんだ。こうして後ろに乗るのは2度目だが、周りの刺さるような視線に、心臓は今にも爆発しそうなほど激しい鼓動を打った。
「もっとしっかりつかまって。遠慮していたら、曲がる時に本当に落ちるよ」
「う、うん」
私は大胆に彼の腰に手を回した。