午後六時。部活で一汗流して気分を立て直した私は、終わると急いで着替えをすませ更衣室を飛び出した。体育館から玄関に続く廊下を小走りで駆け抜け、玄関で素早く外靴に履き替えれば、正面玄関から兎のごとく走り出した。
 これから勇太の住んでいるマンションへ行き、夕飯は何を食べるのか、寝るまでの間はどんな事をして過ごすのか?などを取材する予定だった。
 外に出ると、空は真っ赤な夕焼け色に染まっていた。燃えているように見える。明日は晴れるらしい。気温は下がったが震えるほど寒くはない。かえって部活で大量に汗を流しほてった体には気持ちよかった。
 なにより、これから勇太と一緒にいられるのだと思うと、嬉しさのあまりまた体が熱くなった。汗まで吹き出してくる。
(うわー何の話ししようかな?こんなチャンスそうはないから、いっぱい色んな話しして、私を『彼女候補』として売り込みたいな!)
勇太の密着取材は午後8時まで。本当は我が家の門限は午後7時なのだが、母に頼み込んで午後9時まで延ばしてもらった。いつもなら大会が近い時以外許してくれないのだが、必死さが通じたらしい。
 私は軽くスキップしながら駐輪場へ向かった。
 とたん、携帯電話の着信メロディーが鳴った。バッグの中から携帯電話を取りだしサブディスプレイを見れば、勇太からだった。
 私はハイテンションで電話に出た。
「もしもし!」
『あの…俺だけど』
勇太はおそるおそる返事をした。そこでようやく平静に戻った。
『今、正門のところにいるんだけど、まだ支度に時間かかりそう?』
「ううん、もう駐輪場に向かっているところ、すぐ行くね!」
勇太の自宅がどこにあるかわからないので、最寄りの駅まで一緒に自転車で行き、そこから電車に乗ることになっていた。勇太の家は遠すぎて、自転車で走りきるのは不可能だった。