だが新垣を捕まえたずねると、彼は神妙な面持ちになった。
「どうなの?麗は石田先生にも言ったの?」
「…ああ、言った」
「言っちゃったの?マジで?」
「昨日俺に退部勧告された後、すぐ言いに行ったんだ。石田先生もそれまでの流れを知らなかったから、わけがわかんなくて『どういう事が説明してくれ』って言ったんだけど、高嶋はすごく興奮していたみたいで、『事情は新垣に聞いてくれ』の一点張りで詳しく話さなかったらしい」
「それで、石田先生は麗の退部希望を受け入れたの?」
「いいや、ひとまず保留だって。先生も高嶋が勢いで言いに来たことは十分気づいていたから、後日もう1回確認するって」
「よかった!首の皮一枚はつながっているわけだ!」
私はホッとしたようにため息をついた。新垣もつられるようため息をついた。
「俺もホッとしたよ。部長だからクールに対処しなきゃならないのに、思わず熱くなって『やめちまえ!』なんて言っただろ。後で考えたら、それは最後の最後に言う事なのに。本当、マジで『ヤバイ』と思った。石田先生が大人で『少し様子を見よう』って言ってくれて助かったよ」
「ごめんね、新垣君。ただでさえ部長になったばかりで大変なのに、問題増やしちゃって」
「まあ、それが俺の仕事だからな。がんばるよ」
「ありがとう、そう言ってもらえると助かる」
最悪の事態は免れた事がわかり、私は再び胸をなで下ろした。
 ただ、体育館へ行き実際に部活をしている部員を見ると、また切なくなった。
―部員は全員来ているのに、麗の姿はなかった。そしてそれを、誰も悲しんでいないようだった。―
(麗は、やっぱり邪魔者だったんだ…)
改めて事実を目の当たりにし、ショックだった。ショックのあまり、しばらくの間、勇太のお世話をするのはもちろん、取材するのさえ忘れていた。