少しの間自転車のペダルをこぐ足を止め、空を見上げた。『君は間違っていない』と慰めて欲しかった。
 登校時間ギリギリで学校に着くと、駐輪場から教室までドキドキしながら歩いた。チラチラと見る視線の先に麗がいたらどうしよう?と思うと、気分が落ち着かなかった。
(昨日は勢いで強きの発言をしたけど、あんなにズケズケ言うことなかったかもしれない。冷静に対応していたら、あそこまでひどくならなかったかもしれない)
ホームルーム開始直前の廊下はほとんど人がおらず、麗には会わなかった。遅刻してきた人のように、後ろの開け放たれたドアからこっそり入れば、すでに自分の席に座っている彼女の後ろ姿を見つけた。麗は新書版の本を読んでいて、振り返る気配はない。また、誰も話しかけようとしない。完全にひとりぼっちだった。
「おっはよー、美羽。めずらしいね、こんな時間に来るなんて」
「えっ?ううん。ちょっと寝坊しちゃって」
同じバドミントン部の女子が私に話しかけると、麗の肩がピクリと動いた。しかし、振り返ろうとはしない。黙々と本を読んでいる。窓側を見れば、勇太が心配そうな目で見ていた。『麗のことなら大丈夫だよ』と言ってあげたかったが、クラスメイトの手前、彼女をバカにするような気がしてできなかった。
 そのまま視線を外すと、『ハア』と思いため息をつき、自分の席に座った。しかし気分がザワザワし、落ち着かない。勉強道具を机に入れなければならないのに、まったく手につかなかった。
「おはよう、美羽ちゃん」
「あ、おはよう琴美。昨日の夜はメールありがとう」
「うう。それより、コレ読んで」
「うん」
後ろに座った琴美はささやくように言うと、二つ折りにした手のひらサイズのメモを何枚か渡してくれた。私はそれを慌てて開いた。
 昨夜、携帯電話のメールで麗のことについて沢山相談に乗ってもらった。だが二人で話し合ってもラチは開かず、結局、琴美が『麗ちゃんと話してみるね』としめて終えた。