翌日。朝起きると、心に石を詰め込んだかのように気分が重かった。学校へ行くのは決して嫌いじゃなかったのに、考えは一晩で変わってしまった。ものすごく行きたくない。絶対行きたくなかった。
 原因はもちろん、麗とモメた事。昨日の一件を思い返すと、悲しくて涙が出そうになる。
 あの時は勇太をかばうのが当然と考えていたが、今はあれでよかったのか?と思う自分もいる。頭の中はとても混乱していた。
「美羽、早く行かないと学校に遅刻するわよ!」
「はーい」
しかしそんなワガママが許されるハズはない。高校生の仕事は、勉強すること。部活も勇太の世話係になったのだから、これ以上ズル休みできない。練習しなければヘタになるし。
(しかたない、いくか…)
ダラダラと制服に着替えると、通学カバンとラケットケースを肩にかけた。バッグの中には、母が作ってくれたおいしいお弁当が入っている。いつもはお昼に食べるのが楽しみなのに、今日は違った。
(あんなに麗とモメたのに、一緒にご飯食べれるかな?気まずくて食べれないかな?…その前に、普通に会話できるかな?琴美が昨日の夜聞いてみるって言っていたけど、どうなったかな?)
考えると、玄関で靴を履いたまま足が止まった。三和土にくっついてしまったかのように、一歩が踏み出せない。
「美羽、まだいたの?本当に遅刻するわよ!」
「はーい、いってきまーす!」
母の声にせかされ、やむなく年期の入った家を出た。目の前にある階段を降りて三階から一階へ下りれば、物置から自転車を取り出しノロノロと走った。
 空は今にも雨が降り出しそうな濃い灰色の雲に覆われていた。傘もカッパも持ってきたが、もし降ったら防ぎきれずずぶ濡れになるかもしれない。
(まるで私の心みたい…)