零は新潟県三条市(旧下田村)で産まれた。

父が陸上自衛官だった事もあり、かつて旧海軍最強の戦闘機、零戦から名を取り、零と名付けた。

零は小さい頃、どちらかと言うと大人しい子だった。
幼少時代の彼は人に馴染むのが苦手で、一般的に見れば関わりにくい感じすらした。

その頃、零にとって友達らしい友達と言ったら、幼なじみの北條希望くらいであった。幼馴染みというより、零にとってお姉さんのような存在であったに違いない。

早くに母を亡くし、祖母に育てられた零にとって友達を作る事は、そう容易い事ではなかったのかもしれない。

そんな零を見かねた父が、ある日、零を連れ出した。
零は訳も解らず、父の車にのせられてしばらく走った。

ふと、車の窓から外を見ると、チラチラと雪が舞い落ちていた事をよく覚えている。

「おい!!起きろ!!」

父が零の肩を揺らした。

零はいつの間にか、眠ってしまっていた。

「つぅついたの?」

零は目をこすりながら、ゆっくりと車からおりた。

そこには、小さな古びた剣道場があった。

「来い」

父に手を引っ張られながら、武道場の古びた戸を開けた。