あたしがこいつの彼女だったら、可愛いって思うのかも。制服はダサいけど、背も高いし、よく見ると顔もそう悪くないし。
それどころではないはずなのに、悠々は少年の横顔を見てそんなことを思った。
「さて、どうするかな。僕の口から言ってもいいけど。やっぱり自分で自覚したほうがショックも軽いと思う。」
少年はさっきまでと違い悠々の目を見ないで前を見たまま話した。よほど言いにくいことらしい。
「君は自分の名前もちゃんと言えたし、自分が誰だかわかってる。だから、きっと大丈夫だと思う。うん、きっと大丈夫だ。」
少年は自分に言い聞かすように言ってから悠々の顔を見た。
「君が何故、あの歩道に立っていたか、ゆっくりで良いから自分で思い出してみて。」
少年はさっきまで悠々が立っていた辺りの歩道を見た。悠々も恐々、視線をその場所に向けた。ほんのさっきまで交差点の角、横断歩道の少し手前のところに悠々は佇んでいた。その先に視線を動かすと見覚えのある自転車があった。
あたしのお気に入りのベルト駆動の自転車。チェーンのより高かった自転車。お母さん、無理して買ってくれたのに…
ちょうど横断歩道の向こう側。変な形にゆがんで転がっていた。悠々はぎゅっと自分の両手を固く握り締めた。
やっぱり手をつないだままのほうが良かったかな。
そう思ったとき、少年の手が伸びてきた。悠々のひざの上の手に重ねた。さっきのように強引な感じではなく自然で優しかった。