「あ、真衣さん!おはよう」
にこりと笑い、ワイシャツを腕まくりしてテーブルを拭いているのわ黒服のひとり、風岡隼人(かざおかはやと)。
ここで1番若い彼わ、お店の女の子達と同じようにあたしを気遣いしながら接してくれる。
あたしわあたり特定の誰かと仲よくする方でわないけど、なるべく挨拶ぐらいわするようにしている。オーナーの姪だからってツンと澄ましてるなんて思われるのも嫌だし。


そうやって声を掛けあうからか、
「彼、真衣ちゃんのこと好きみたいよ」
なんつ女の子に冗談混じりに言われることもあるけど、いちいち真に受けるほどあたしわ浮かれた性格じゃない。
誰とも深くつきあわず、でも感じよく。
いつの間にかそんな処世術が身についてしまった。


あたしわ隼人に手を振り、控え室に戻った。
「さーて、乃愛さんが一服済ませたら、女優の時間」
さっきまでベソをかいていた愛さんわ、もう一度マスカラで睫毛を上げながら、鼻歌なんか歌っている。
もう[ナンバー2・愛]モードに入ってるんだろう。
隣の乃愛さんも、煙草片手に鏡を覗く。ゴテゴテ光る石やリボンで飾られた華奢な乃愛さんの指先が、控え室でのプライベートでわ煙草をつまんでいるだなんて、佐木中先生だって知らないことだろう。
女達の表と裏があからさまなこと世界を、あたしわ決して嫌じゃない。