お母さんへ


お母さん、元気?


そちらで楽しく暮らしていますか?


私は相変わらず学校とバイトの毎日です。


友達もたくさんいて、とても楽しいです。


また手紙書きます。


可奈





あの子は可奈っていう。

お母さんがニューヨークにいるようだ。


だけど、エアメールは送ってないものが多いみたい。

こうしてゴミになっているから。


手紙の束たちは、ほとんどこんな小学生のような短い文章で綴られ、挨拶がわりの近況が書いてあるだけ。


俺はあの子のことは何だって知ってる。


名前や誕生日や血液型は


ゴミになっていた日記帳で知った。


バイト先は駅の近くの本屋さん。


バイト先に行ってみたことがあるけど、ただ無言で新しい本を並べていた。


痩せた体に白い肌。


ロングヘアーと大きな瞳。

紅くて幼い唇。


俺はマンションの前で初めてすれ違ったとき


あの子を好きになった。


だけど声をかけたことも


目が合ったこともない。


唯一知らないのは


あの子の声。


どんな声で話してどんな声で笑うだろう。


ゴミ袋の中には、やりかけのレポートもあった。


太宰やら芥川、森鴎外。。。理系の俺にはさっぱりだけど、びっしりと美しい文字で書かれたレポート。


あの子は無防備だ。


この時代に手紙もレポートも時には携帯電話の明細書もシュレッダーにかけず

そのまんま。



もっと知りたい。


俺のあの子。