Genius~守り人~

「いいよな、多能者は」

氷が來奈達の様子を見て、ふてくされた様に呟く。



《多能者》とは文字通りで、來奈の様に複数の属性(無を除く)の術を持っている者のこと。

ウルトに住む人々の半数は多能者らしい。



「氷もじゃないのか?」

「いや、俺は違う。

氷と水っていってもどっちも水属性だからな。

同じだからそうとは言えないさ。

…なんか…うらやましい…」

「別に持つ術が多くても何も変わらないだろ。」

静かに來奈が口を開く。

「たとえ持っている術が多くても、使いこなせなければ意味がない。

それに1つの力ばかり強くしようとすれば、他の力が弱まったり失ったりすることもある。

複数の術の維持は難しいんだ。

でも、研究が進めば自分の持たない術を補える様になる。

…………だろ?」

護の方を向く。

彼は「まかせな」と自信ありげに笑ってみせる。


ゴーン ゴーン ゴーン


壁に掛けられた時計が未の刻(午後3時)を知らせる鐘を鳴らした。

「もうそんな時間か……」

そう言うと來奈は、椅子からたち軽く伸びをした。

「じゃあ、そろそろ行くな。」

「行くってど…」

「行ってらっしゃい。」

何処に行くつもりだ?と聞こうとした氷を制して、護は爽やかな笑顔を來奈に向ける。


「…じゃあ…な。」


來奈は軽く手を振り家から出て行った。