「おのれぇ…侵入者…」

目をぱしぱしと瞬かせて兵士は次々と倒れていく。

「おいおいおいおい!お前何してくれてんの?!」

シシャは小さな小瓶を振り回して使い切るとポケットの中にしまう。
そしてどうどうと脇門から炎國へと入國した。

「殺してない」

「殺してたまるかーっ!!!これじゃ不法入國者だろうがああああっ!」

「この髪じゃどのみち炎國には入れないからいいんだよ」

「…なんて強引なんだよ」

炎國に入りシシャは城下街のほうへと足を運ぶ。

人の数も増えて、俺たちが目立つようになってきた。

「なに、あの黒尽くめ」

「でも隣には騎士の人がいますわ」

買い物中の女性や散歩してるご老体までこちらに白い目をむける。

城下街をさらに抜けて町外れの住宅地へとまできた。
すでに周りは暗闇に覆われていた。

シシャはある一軒家の玄関で止まるとノックをした。

「はーい」

しばらくして杖を支えにしておばあちゃんが扉をあけた。

「…どちら様?」

おばあちゃんは目つきを鋭くし俺たちに警戒をしているようだ。

「俺ら騎士団のものです。夜分遅くにすいません」

「騎士の方がこんなところに何の御用だい?」

シシャがおばあちゃんの目の前に立った。

「陽龍に用がある」

陽龍…どこかで聞いたことあるような名だった。
誰だったろうか…?


「…陽龍はもうここにはおらんですよ。やつは今、國の長だからね。こんな安っぽい食堂にはこやせん」

そうか、思い出した!数年前に反乱を起こして王の座を手に入れた男だ!
そんなやつに預け物?

「陽龍に会いたければ、宮廷に行くしか方法はありませんよ。まぁ無理な話だがね」

「あ、ありがとうございました!」

俺はお辞儀をするとシシャも一礼した。

扉を閉められてシシャの様子を伺うと宮廷にむけて歩き出した。

「まさか…行く気か?!」

シシャは無言で歩き続ける。

「全く…どんな大切なものを預けているんだか…」

俺は呆れながらもシシャの後を追う。