シン國の森は広大だ。
だが、人が住めるのは限られた平地のみ。
人は森の麓へ住む。
緑が多くて生き物が生きやすい。
ミラやコルディアとは違う豊かさだ。

この國は王族が存在しない。
城には指導者や、兵士が集まるようだ。

ミラやコルディアとは違う国政。

街の様子を眺める。

コルディアで起こっている事が嘘のように賑やかだ。

街の人々に「最近調子どうだー?」声をかけながら兵士は定期的に巡回をする。

「ゆっくりと街を見るとなんだか気持ちが楽になったよ」

水希はそう言いながら久しぶりな笑顔を見せる。

「清がいてくれて良かった」

そう言う水希はもう大丈夫だろう。

穏やかな時が一瞬にして変わる。

1人の男性の叫び声が上がる。
森の中から妖魔が飛び出してくる。

俺と水希が妖魔に向かって一歩踏み出すとき、周りの兵士が一斉に妖魔に飛びかかり首を落とした。

血が吹き出し、叫んだ人に血飛沫がかかる。

「大丈夫か?怪我してないか?」

1人の兵士が声をかけるとゆっくりと倒れていった。

倒れそうになった男性を支える兵士に男性は、「助かったよ…情けねぇ、腰が抜けた」
とから笑いをする。

そして周りの人が男性に肩を貸して移動させ、兵士が荷台を持ってくる。

妖魔を荷台に乗せる前に兵士達は手を合わせる。

その光景は俺たちには見慣れない光景だった。

「また妖魔だ…神子様の力が弱まっているのかね。皆んなでお参りに行こうか。」

兵士達がそう話しながら妖魔を荷台に乗せて森へ向かう。

「清、今の…」

「兵士について行こう。」

俺たちは兵士と距離を保ちつつ森の中へ入る。

兵士達は妖魔を連れて森を突き進む。

獣道のように道は真っ直ぐ伸びている。
奥までたどり着くと一本の大木がたっている。

この木はシン國でところどころにある大木の一つのようだ。

兵士は大木のそばに妖魔の死骸を置くと、
死骸は光を放ち消えてゆく。
淡い光となって妖魔は消えた。


兵士達は深く礼を行い空の荷台を持って来た道を戻って行った。

「清…僕、妖魔が光になって消えるの初めてみたよ…」

「俺もだよ。…綺麗な光だった」

七色の光は木に吸い寄せられるように消えていった。

木の周りには時折光が飛び交い、とても心地が良い空間だ。

「不思議な木だね」

俺たちは木に近づく。

フワフワとした光が明るく木を照らしている。

俺たちが木を触ろうと手を伸ばすと強い光を放つ。

さっと腕で目を庇い、光が収まったの確認して腕を下ろした。


そこは俺たちがいた場所ではなかった。



似ていた。



似ているが、違う。



大木の後ろに神殿らしき建物があった。

そして歌が聞こえる。


「どこだろう、ここ」

「…なぁ、水希。歌が聞こえないか?さっきまで聞こえなかった歌が」

「…うん、聞こえる。行ってみよう!」


神殿へと進むと歌がはっきりと聞こえてきた。


〜♪


神殿の入り口まで響く。

神殿の奥へと進むと石畳からまた草木の広がる広場のような場所に出た。

広場の中央に女の子は立ち、歌を歌う。


余計な力が抜けていく。
綺麗な歌声だ。

長い髪は風に吹かれサラサラと踊る。

女の子はこちらに気づくと、歌をやめて驚いたような表情をする。
でもすぐに残念そうな表情を浮かべ、近くに寄る。
「そんなわけないよね…」

水希の姿をじっくりと見て俺に向き直る。

「どうやって入ってきたの?」

「それがわからないんだ。気付いたらここに来ていた。」

「迷い人だね。大丈夫。後で元いた場所に案内するよ。今は奉納中だからそれが終わるまで待っててくれる?…ここに人が来ることなんて滅多に無くてびっくりしちゃって。途中でやめちゃったからやり直ししなきゃ」

にっこり笑う彼女はまた元いた場所に戻り呼吸を整える。

「水希。入り口まで下がろう」

そう切り出したのも、先ほどから体の力が入らず眠気が絶えなかったからだ。

眠らないように手をつねったりしているが眠気が襲う。

「なんだかおかしい」

「奉納中は聖地に何人たり踏み入れることないよう。国の為、その身を捧げる覚悟あるものは聖地にてその身捧げよ…特に大きいお兄さんは危ないよ」

水希をかかえ、入り口まで下がる。
意識が朦朧としてきた。

彼女は歌い出す。

美しい歌声が心地よく、ここ数日の緊張が切れたように体が動かなくなった。

抱えていた水希を落とした気がする。

ダメだ…眠い。
体が動かない。

まるで母の子守唄のように心地よい。

瞼を閉じてしまったら_____

永遠に戻れない気がする。

だが、俺はそのまま意識が途切れた。




「大丈夫?」

俺を覗き込む先程の彼女と水希。

「…」

ゆっくりと体を動かすと、体の疲れが取れていた。腕も上げるのも軽い。
目を擦ると濡れている。

…泣いていたのか?

「神はあなた方を癒しました。」

彼女はふんわり微笑む。

「清、大丈夫?」

水希は俺の涙を拭うように袖を擦り付けてくる。
水希も泣いたのか、顔は赤く、袖はすでに濡れていた。
ただ、先程の水希と比べ物にならないほど顔色と顔つきが違っていた。

「水希…お前、凄く…顔色良くなったな…」

驚きで言葉が途切れ途切れに出てしまった。

「清もすっごく顔色いいよ」

「具合が良くなって良かった。もう少しで妖魔になりそうだったけど、神はあなた達を癒しました。」

妖魔と単語に俺も水希も反応する。

「妖魔になる?」

彼女は小さく頷くと、俺と水希を交互に見た。

「人は心身ともに傷つくと妖魔になります。人の姿をした妖魔です。人の血肉を食べることで力を満たすようになります。」

俺の手と水希の手を取り、彼女は手を握りしめる。

「2人とも悲しいことがあったんだね。辛いことがあったんだね。

「リン?」

「もしかして、兄様を知っているの?」

「あなた、他の國のリンの兄弟?」

「はい」

「そっか。だからここに来れたんだね。リンが帰ってきたと思ってびっくりしちゃった」

「兄様を知ってるの?」

「知ってる。リンとエデンが居なくなるまで、私たちは3人いつも一緒だったの」

「あの!僕今兄様を探してて…何処にいるんですか?」

「…わからない。リンとエデンはもうここにはいないよ」

「なぁ、君は道化なのか?」

水希との会話を挟むように話すと、彼女はキョトンとした表情で俺を見る。

「道化?」

彼女が嘘を言っているわけではないのは心音でわかる。

彼女は部外者だ。

「兄様は昔ここに居たの?」

「居たよ!私たち神子は森を降りては行けないから、皆んなで一緒に暮らしてたの。たくさん居たの。でも、皆んなどんどん居なくなって…奏者のリンもエデンも…居なくなっちゃった。」

「いろいろ質問するけどごめんね。順番に聞くね。皆んなはどこに行ったの?」

彼女は首を静かに振る。

「わからない。皆んな突然帰って来なくなっちゃうの。リンもエデンも。居なくなる前の日に会いに来るって言ってたのに…ずっと待ってたけど来なかった。他の子も。急に居なくなっちゃった。」

「居なくなったのは何時頃の話?」

「もう4年か5年程経つのかな…」

「5年前…僕が兄様に会った頃だ…」

「リンに会ったの?!何処で会ったの?!」

彼女は目を輝かせ水希に目線を合わせる。

「コルディアの城内で…」

「良かった…生きてるんだ…良かった…」

彼女はゆっくりとしゃがみこんだ。
両手で顔を覆い、嬉しそうに、
愛おしそうに笑う。

「ねぇ!今リンはどうしてるの?リンのこと教えて!」

そう彼女はのめり込むように水希に言う。

「兄様は…コルディアで國に反乱して、僕達の1番上のお兄ちゃんを殺そうとしてるの…」

「…」

女の子は信じられないというような目を見開き動かない。

「リンは優しいよ…神子の中で1番強くて、誰よりも仲間思いで…いつも私たちを守ってくれてた。誰よりも奏者にふさわしい人だった」

「さっきから出てくるその奏者って何かな?」

「奏者は神に捧げる祈り人のこと。神子の中で1番妖力を持つ者が神に仕えることができるの。神子は沢山の人




この目の前の大きな扉の中に入るのだろうか?

「兄様…」

扉に一歩ずつ進む。
そっと扉に手を触れるとその扉は実態がなく、通り抜けれるようだった。

「この中…」

ゆっくりと歩いていくと、扉というものか無かったかのように通り抜けれてしまった。
扉の向こうは神殿の中には変わりが無いけれども、先ほどのようにしっかりと整備されておらず、いたるところに蔦が生えて雰囲気ががらりと変わってしまっている。

目の前には外に出れるようにぽっかりと出口が開いている。

導かれるように出口へと足が動いてしまう。

外は変わらずの森だった。

「反対側に出てきちゃったのかな?」

神殿の裏側へ行こうとすると、建物がガラガラに崩れて先ほどの場所へは戻ることが出来ない。
その崩れ方が異常で