人は窮地に立たされた時、大切なモノの光景がフッと脳裏をよぎると聞いた事がある。



俺にはソレがあるからこそ、その分かりたくもない経験をした自分を悔やむばかりだ。



何が浮かんだのかなんて尋ねられる事が、もはや愚問であるから・・・




どちらに行けばいいのか分からないくらい、気の遠くなるような場所に居た俺。



真っ暗な闇の中であてもなく彷徨っていれば、ふと遠くの方から叫ぶ声が届いて。



行き先の分からない恐怖が押し寄せる今、ソレを目指してひたすらに走っていた…。




「う…、ん…?」


ただただ光を求めて辿り着いたのは、ぼんやりとした視界に映る真っ白な世界。



そして白衣に身を包んだ人が肩を叩くから、意識が徐々に引き戻されるようだ。



重すぎる瞼をこじ開けながら、段々と自分の置かれている状況が分かって来た。



ああ、そうか…俺はあのトキ刺されて――…




「か、川崎…、目覚めたか!」


「え…、あ、あ。…ッ」


瞳さえ言う事が利かない中、シャツ姿で俺を覗き込む見慣れた男の声が響き。



頷きながら声を上げようとすれば、ズキッと疼痛が走って顔をしかめてしまう。