結婚はムリだと諦めていた私を、“真咲しかダメ”だと受け止めてくれた初めての人。



そんな大和と将来を誓い合った日が、まるで昨日のコトみたいね――…



「っ、いた…!」


すると小さな破片が入っていたようで、人差し指の傷口から鮮血が生まれていく。



料理をしていても手を切るなんてコトは滅多に無いのに、朝からイヤになるわ…。




ソレが不遇を告げる前触れだったとは、幸せすぎて気づくワケも無かったの――



自己嫌悪に陥りながら傷口を消毒して手当をしていた、まさにその時だった。



穏やかな朝の静寂を切り裂くようにして、無機質なコール音がリビングに響く。



「…はい、川崎です。
はい?わ、たしですが…」


お義母さまからだと思っていた私の予想は、相手方の慌てた声で打ち砕かれた。



それは国際電話だったというのに、相手が彼で無かった時点では気づけなくて。



「え…?う、そ…、やだ!」


聞き入れたくもない言葉の数々を否定するように、ただただ大きく頭を振っていた。



もう帰りの機内で休んでいると思っていた考えは、バッサリと断ち切られてしまう。



いやよ…、どうして大和が…、アメリカで刺されて病院に搬送されるの…?



 【#十七  前 兆★終】