俺の一言を聞いた途端、強まっていた力がフッと弱まって距離が生まれたので。



改めて振り返って見れば、何も知らない彼女は明らかに動揺しているようだ。



「…結婚って?ウソでしょ?」


「嘘なんかつく訳ないだろう?ほら…」


先ほどとはまったく違う小さな声での問い掛けに、その証拠となる薬指を掲げた。



その指には真咲と誓いを交わした時から填まっている、マリッジリングが主張する。



「Oh,Jesus…!」


「…そういう訳だから」


その一言に“ごめん”の意味を込めると、再び背を向けて会場へと歩み出した俺。



「ヤマト――!」


声を振り絞って呼ぶ彼女の声には、その足を止める事なく手を挙げるだけに留めた。



日野と仲が良いメアリーだが、どうやら日野は怒りの飛び火を恐れて黙っていたようだ。



驚嘆して叫んだメアリーの気持ちを分かっているから、これ以上は何もしてやれない。



日本で働いていた頃、幾度も彼女から大胆なモーションを掛けられていたのは事実で。



ソレをのらりとかわして、思わせぶりな態度を取っていた俺が全部悪いのだから…。