“朝倉の鉄の女”とは、同業者であれば誰しもが耳にした事があるだろう。



これを持つ人物こそが東大卒の才女と謳われる真咲、その人だ――



そう揶揄されるほど、賢くてプライドが高い女だと噂が飛び交っているらしい…。




するとガシャンと音を立てた瞬間、テーブル上に柔らかい液体がドロッと流れた。



「あーっ!ご…、ごめんなさぁい」


どうやら亜実ちゃんは混ぜる事に必死で、支える手の力が弱まっていたらしい。



「真咲ちゃーん…」


かろうじてボウルに残った、半分ほどの生地を見ながら申し訳なさそうにしていると。



暫くしてクスクスと笑いながら、真咲が机上に何かを置いてからボウルを受け取った。



「ふふっ、これだけあれば十分よ。

亜実よくかき混ぜたねぇ、ありがとう」


「うん――!」


真咲がダイニングテーブルに置いた物は、小さなカップケーキ用の型を数個…。



当初は天板に生地を流せるよう、あらかじめシートを敷き準備万端だったようだが。



ソレを亜実ちゃんに気づかれないように、そっと隠してカップを持って現れたのだ。