今度は俺の方が想定外となってしまい、首を傾げて彼女を見つめていると…。



「…亜実が怖がるから、仕事と通勤服と分けていたけれど――

本当はソレを理由にして、私がただ“境界線”を作りたかっただけなの…」


「真咲・・・」


苦笑を浮かべながら理由を明かしてくれるから、大丈夫かと不安に駆られたが。



「でもね?何か今日バレたら凄くスッキリしちゃった」


すぐにいつもの笑顔に切り替えて、フルフルと頭を振った真咲に制されてしまう…。



「せっかく大和が褒めてくれたけど…、今日でこのスタイルとはオサラバする――

ただ時間と成果に追われるウチに、“女だから”って詰られるのが嫌で始めた格好だし。

惰性でしてた格好だから…、やっぱり本当の自分で勝負したいと思ったの…。

明日からは自分が好きな格好で、頑張れるだけ打ちこんでみる!…ダメかな?」


「最高――俺には勿体ないよ」


紡がれた言葉のどれもが愛しさを増すだけで、ギュッと彼女を抱き締めた。


「もー、また言うー!」


呆れたような声色を響かせて笑う真咲には伝わらないらしいが、本当に俺には勿体ない。



…かと言って、彼女を手放すつもりは一ミクロンも無いけどな――




「…今日で最後の格好ついでに、このまま居酒屋でも行こうか?

亜実ちゃんと母さん、ライドで食事するって連絡あったから」


「…ふふっ、今日で最後だしね?」


頷いた真咲の唇にキスを落とすと、手を繋いで賑わしいオフィスをあとにした…――



  【#九  脱却★終】