今までだったら…帰宅が深夜になっても眠るだけだし、別に構わなかったけど。



やっぱり家に大切な人が待っていると思うだけで…、早く帰りたくて堪らない。



そうは言っても、会議や日帰り出張が重なれば自宅へ帰れない事もしばしばで。



ソレが会社で担う俺の役割でいて、大切な子2人を守る生活柱でもあるのだが…。




「…邪魔すんな、って言ってんの」


入力を終えた案件を一旦保存し終えてから、ようやく視線を佇む男へと向けた。



「俺はお邪魔虫か?」


「そーいうコト」


ムスッとふてくされた日野の表情を捉えると、思わず笑いが零れてしまう。




「頼むから、…家庭料理食わせて?」


「近所の定食屋で楽しんで来い」


せっかく早く帰宅出来る日に、3人での憩いの時間を邪魔されたくないのだ。



「オマエ薄情者だな…、2週間前までは“コッチ側”だったクセに」


コイツが言いたいのは、“独身者”の侘しさにも少しは気遣えという事だが。



「出会ったんだから、仕方ないだろ」


「…社内の女の子、どんだけ泣いたと思う?」


薬指に填めたマリッジリングを一瞥した俺へ、悔しそうな声色が降って来た。