秋桜が散る前に



私と空くんは、収集所のダストボックスにゴミ袋を放り投げた。



ダストボックスはビル裏にあって、人気はないけれど、隣りのビルのせいで幅は狭い。


上を見上げると、切り取られた夜空が見えた。



星は、ひとつも見えなかったけど。




「今日…星は見えないんだね…」


「こんなスモッグまみれの街で、星なんか見えるわけないだろ。」




ポツリと言った私の独り言に、空くんはコンマ2秒で返してきた。


とてもとても、悲しい顔をして。




「そんなこと、ないですよ。星は、どんなときでも必ず見えます。見えないのは…自分で自分を目隠ししているからです…」




―見えないのなら、雲のむこうに探しに行けばいい。―



完璧に奏太くんからの受け売りだけど、私は空くんにそう言った。



空くんは、驚いたようにあたしを見て、でもすぐに俯いて、黙ってしまった。




「―1人よりも、2人がいい。共に支え合える友がいるのは、幸いである。―」


「…聖書?」


「はい。そうです。旧約聖書。この節は、私の好きな節なんです。あたし…空くんと友達になりたいです。奏太くんの、替りにはならないかもしれないですけど。」




―星が見えないって言う奴は、きっと、聞いてほしい事があるんだ。だから、そんな奴がいたら、聞いてやれ。―



空くんは、きっと、誰かに聞いてほしい事があるんだよね…?


奏太くん…



空くんは、黙って私の作業の裾をつかみながら、ポタポタと子供みたいに涙を流した。



そして、ボソッと一言だけ、




「やっぱサクラちゃんは、奏太の妹なんだな…」