『賜物』は私がかってにつけた題名だ。
ほんとは賛美歌の何番かだったんだけど、忘れてしまった。
ただ、奏太くんが好きだった事だけを覚えている。
「…―アーメン…―」
パチパチパチ…
拍手が聞こえた。
歌い終わると、いつも誰かが拍手をくれる。
この教会に用があって来た人や、単なる通行人とか。
この前は結婚を控えたカップルが式で1曲歌ってくれないかという依頼までしてきた。
歌うのは嫌いじゃないから、その話は受けた。やっぱり『賜物』を歌ったんだけど。
カップルは幸せそうで、眩しかった。
「咲夢ちゃん、僕はちょっと出かける用事があるんだ。どうする…?」
えっ…バイトまであと1時間はある。
仕方ない、お金ないけど、ファーストフード店で暇を潰そう。
ついでに課題も終わらせればいい。
「じゃ、私もう出ます。バイトもありますし。」
「そう?ごめんね。千歳(チトセ)さんによろしくね。」
「はい。また明日、来てもいい?」
「もちろん。待ってるよ。」
私は牧師さんにほほ笑んで教会の扉を開けて外に出た。
春の桜が…もう散る頃かな…
私はひらひら舞う桜の花びらを眺めながら、思い出す。
奏太くんが死んだのは、秋の桜、コスモスが散る頃だった。
もう、こんなに時間が経っちゃった…
ねぇ知ってる?私、今月でもう奏太くんの歳に追いついちゃうんだよ?



