奏太が入院した後も、彼女を見掛けた事がある。
正確には、盗み聞きした声だけだけど。
『奏太くん、待ってるから、絶対、帰って来てね。一馬も早和も、奏にいまだ?って言って来るんだよ。』
『うん…帰るよ。必ず。生きて帰るから、待ってて咲夢。』
『当たり前だよ。帰ってくれなきゃ、困るんだから。』
準無菌室の窓越しに、響き合う2人の声。
奏太は気付いていたんだろうか。
俺にはすぐに分かったんだけど。
咲夢さんも、奏太が好きなんだ…
帰って来て。死なないで。
そう繰り返した彼女に、奏太はもうあまり生きられない事を告げていなかったらしい。
『言わなくて…いいのか?』
俺は奏太が死ぬ3日前に、そう聞いた事がある。
『もしかしたら、ドナーが見つかるかもしれないだろ?』
奏太は最後まで、自分の命をあきらめようとはしなかった。
生きる事に希望をかけた。
そうして、奏太は死んだ。
彼女に想いを伝える事なく、また彼女も奏太に想いを伝えなかった。
最悪の恋の終わり方。



