覚えている。

覚えていたが、覚えていると言っていいのか、なんだか返答に困った。

なんでもない質問のはずなのに、「覚えている」その一言が中々言えなかった。

本当はあの試合の後も何度も聞きたかった。

「恭介と付き合ってるの?」

けど臆病者の俺はついに今日まで聞く事はできなかった。

変われたと思っていた。

学校にもいけた。

恭介にも勝てた。

けれど、今はどうにも怖くて、「覚えてる」たったそれだけが言えない。

気まずい沈黙が俺と尋の間にまた流れた。

すると尋は急に歩みを止めた。

俺が後ろを振り返ると、尋は俺があまり見た事がない表情をしていた。

悲しげな、怒っているような、今にも泣き出しそうなそんな表情。

「・・・・っ」

こんな時なんて言えばいいのか、俺にはわからない。

尋を見つめたまま、俺は動けず、声も出せなかった。