もう、恭介に勝つ方法なんてないんだ。

それならいっそ、さっさと負けてしまったほうがいい。

そんな事を思った時だった。



「田中君!自分の今を変えるんだろ!?」



「逃げるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」



大声がする方を見ると、立ちあがり、興奮して、息を荒げる咲美がいた。

普段はおとなしく、恥ずかしがり屋で人前で大きな声など絶対に出さない咲美が場外の線を跨がんばかりに、前に出て俺に喝を入れてくれた。

その表情は真剣で、目には涙をためている。

寺門と尋も、咲美に続いて応援してくれている。

「右近君負けるなー!」

「まだいけるぞ!」

不思議だった。

延長までいき、恭介に何度も叩かれ、吹き飛ばされ、疲労もピークに達しているのに、力が湧き上がってくる感じがした。

もう、勝てない。

負けてしまおう。

なんて思っていた自分に腹が立った。