恭介が最も得意とするのは面打ちからの突き。

俺はそれを誘ったのだ。

何度も寺門と突きをかわし、返しで胴を打つ練習を繰り返した。

時間の流れがゆっくりと進むような感じがした。

恭介が腹部に引きつけた竹刀を、俺ののど元めがけて、押し出すように突いてくるのがわかる。

かわすだけでは、だめなのだ。

俺も打ちにいかなければならない。

恭介の突きは鋭く、迫力もある。

下ってしまいたい弱い自分に心の中で喝を入れ。

一歩前に踏み出しながら、近づいてくる恭介の剣先を見つめる。



時間がゆっくりに感じるからだろうか、恭介の竹刀が伸びてこない。



「田中君!!!!」



寺門の声にハッとした。

恭介は突きはせず、竹刀を引いていた。

竹刀が伸びてこなかったのではなく、俺が踏み込む分、恭介は竹刀を引いていたのだ。