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特に何ら変哲の無い喫茶店に、彼は座っていた。喫茶店には落ち着いたクラッシックの曲が流れ、それはこの喫茶店の雰囲気そのものに思えた。特に人気、というわけではないその喫茶店の看板にはぱっちりとした目が描かれていた。何処か不気味な印象をもたれるそれを従業員の何人かは嫌がり、絵を変えるようにと店長へともちかけたが店長は聞く耳を持たなかった。絵に被さるように「Faust」と店の名前が載せられていて、店長はどうやらお気に入りのようだ。目の前のテーブルに置かれているグラスの中では、ぶくぶくと泡が浮いては消えるを繰り返していた。出されてから数分が経過したが、彼にそれを飲む気は一切無い。ただ、何も頼まずずっとこの場に座っているというのはさすがにできない、という彼の心理的事情から頼まれ、此処にあるものだった。彼はようやく行動を起こす。大きくもなく、小さくもない、ただ少し色褪せ、古ぼけたような鞄の中から、先ほどコンビニで購入した新聞を取り出した。見出しの記事は、最近となってはもう当たり前になってきたような記事だった。


-またもや残虐!快楽殺人鬼現る!-


もう飽きていたそのフレーズに目を細める。現在日本中を恐怖に至らしめる存在、それがこの記事でいう、快楽殺人鬼。もう何人目だろうか。マスコミはこの記事ばかりを取り上げている。大体、快楽かどうかも分かっていない。だがしかし、確かにやり口はその“快楽殺人鬼”とよく似ているのだか。彼は眉間に皺を寄せると、飲む気など無かったそれへと手を伸ばした。