「私も次の日は仕事にみが入らなかった」
遠い日を思い出しながら、春美の顔に笑顔が広がる。
ふと目の先にある時計台に意識がいき、上映時間に近いことに春美は気づいた。
そそくさと準備を始める春美を見て、文也も時間を取り戻す。
映画の中では、彼らはきれいな身なりをして、きれいな顔立ちで、人がうらやむ恋をする。
ベタなラブドラマは恋人たちにとって、栄養剤の役割をへていた。
同じような内容でも、その時々のカップルには必要なものだ。
そして今、キスを交わす春美と文也にとっても、これは言える。
ベッドに潜り、あらゆる場所にキスをし、自分の証をつけていく。
春美の甘い声が部屋に響く。
その声に反応するように文也が動く。
文也の動きに愛おしさを感じ、そっと背中を抱く春美は夢を見ているようだった。

