ーー文太side


「後…2時間位ってとこか?」


懐中時計を見つめながら独り言のように呟く。雅明から連絡を貰って向かっていた途中で会った奈緒が「そうみたいだね」と返事をしてくれる。


「………」


チラッと怜の方を見るとさっきよりはしっかりしてるが心ここにあらずと言った感じで一点を見つめて歩いている。


再び懐中時計に目を落とす。…5個水晶が割れている。たった10時間の間に…それだけの命が消えていった。


もう俺のせいでって逃げんのは一旦終わりにしなければいけない段階に来てしまった。俺が俺なりの責任の取り方で別行動をとっている間にいつの間にか友達が消えてしまっていた。


昴、拓海…そして雅明。


雅明の死目に会えただけでもいいのかもしれないが……相当ショックだった。吐き気が先程から消えない。雅明や怜の手前…なんでもないように振る舞っているが…本当は油断してると涙が流れてきて吐きそうになる。


俺でもそのくらいのショックなのに…怜はほぼ全員の死を見てきている。


結局…俺は逃げていただけだったよ。もしかして俺がいればまた状況が変わっていたかもしれない。自分の無力感が悔やまれる。


側にいた怜は…俺以上に自分を追い詰めているだろう。ごめんな…。俺が逃げてしまったせいでお前に全部背負わせてしまったな。


じんと不意に痛みを感じる頬。怜は…喧嘩っ早くて少し乱暴なところはあったけど自分が友達だと思ったやつを本気で殴ったことなんてなかった。


中学時代は…反抗期と両親の離婚で荒れに荒れて周りに腫物扱いされるくらい喧嘩していた。俺はそれでも側にいたけど…やっぱり俺を殴ることはしなかった。


中学2年の終わりがけに「…俺まるで悲劇のヒロインぶってる奴みたいだよな」と急に…本当に唐突に言われた時は驚いたものだ。それから喧嘩っ早いところは残っているが、すっぱりそんな自分をやめて元の…今の怜に戻っていった。


そうやって弱いところを見せないように生きてきたあいつが…こんな弱々しい姿を見せてることがどれだけあいつを追い詰めているかを物語っている。


…本当ごめん。そんな時に一緒に居なくて。


今度は…俺も居るから。だから絶対一緒にここから脱出しよう。そして一緒に背負って行こう。この悲劇を。


懐中時計を強く握りしめて密かにそう決心した時だった。


「ーーわっ!」


「?」

女子2人の驚く声に振り返ると怜が廊下の写真を凝視していた。


どうした?何かあったのか?


「おい?どうした?さとーー「なんとかなるかもしれない」


「え?」


俺の問いに被せるように怜はそう小さな声で呟いた。なんのことだ?


「このクソみたいなゲームを終わらせられるかもしれねぇ!」


「「「!」」」


俺と同時に女子2人も怜の方を向く。


こちらを向いた怜の顔にいつものような力が戻っていた。