「さて…下ろすか」


そう言って怜はレバーを引いた…が。


「あれ?降りない?」


防火扉はうんともすんとも言わない。


「壊れてんのか?」


「あっ!あれ!」


雅明が反対側の壁を指差す。


その方向を見るともう一つレバーがあった。


その壁には「レバーはどちらも下げること」と書かれていた。


…それも、扉の外側に。


「外側にある…」


「…一旦作動確認しよう。外側を引く方が閉まるまでに入れれば問題ないからな」


「そうだね…。とりあえず僕はこっちの外側を引くよ」


「あぁ。よろしく」


そして2人同時にレバーを引いた。


ーーバタン!!


「!」


それは一瞬で閉まった。


普通こういった扉はゆっくりとしまるものだが、ここは普通の世界ではない。


「これじゃあ1人取り残されちゃう…!」


「ちっ…ほんとにあいつは食えないやつだ。これも計算済みか」


もう一度引いて扉を開ける。


「仕方ない…この扉を閉めるのは諦めて真里が問題を解いたらさっさと行こう」


怜がそう言った瞬間勢いよく何かが走って出てきた。


「!!!」


それは鬼だった。


血塗れで腕と首が変な方向に向いているのにも関わらず先程と変わらないスピードで走ってきていた。


「クソッ!!思ったより復活が早いな!!」


「真里さん!!」


雅明が奥にある真里の名前を呼ぶ。


「あと、少しなんですが…!さっきと少し問題が違って…!」


「なんだと!?」


必死に数字キーを押している真里。


「あと何問ですか!?」


「あと2問です…!」


2問。


たかが2問だが、今はそんなに時間の余裕がない。


そう言っている間にも鬼との距離は近づいている。


「クソッ!もう一回殴るしかないか!?」


そういうものの、血が付いた箒を持っているのが嫌で先ほどの階段近くに置いてきてしまっていた。


掃除ロッカーの横を鬼は通り過ぎてもう殆ど目の前まで来ていた。


「素手ってか…!悪い冗談にも程がある…!」


それは不可能に近いことは目の前で2人を殺された全員が分かっていたことだった。


「……!」


雅明が怜の方を見ると怜は唖然としていて、レバーに手をかけたままであった。


「………」


あることを決心した雅明は、深く息を吸って再び怜の方を見た。


それに気付いた怜も雅明の方を見た。


目と目が合った瞬間、雅明は優しく微笑み口だけでこう言った。


ーーありがとう。…バイバイ



「!!やめろ!雅明ーー!」


雅明が何を考えているのか分かった怜はレバーから手を引こうとした。


しかしーー


ーーバァン!!!



「!!!」



無情にも扉は閉まった。


「何してるんだ雅明!!今すぐここを開けろ!」


なんどもレバーを引くが、扉が開かれることはなかった。



「馬鹿なことすんな!聞こえたんだろ!?早く開けて逃げないと!!」


扉を何度も叩きつける。


力の限り叩いていたため、拳から血が滲んで来たが構わず叩き続けた。