ダイヤル




次の日あたしはいつもみたいに

夕方4時に店に行った。

この店はお高いせいもあってか

常連客が多かった。

なのに今日は珍しくピークの時間帯に

常連客じゃない人が来た。

入口の近くでウエイターが案内している。

後ろ姿を見る限り男女だった。

でもあたしはその男が成海だと言うことに

すぐ気づいてしまった。










手が空いていたあたしは

メニューとミントの入ったお水を持って

成海が座る席に向かった。






「いらっしゃいませ。失礼致します。

こちらメニューでございます。本日のディナーは…」



「…あれ?百合?」


「あっ成海…気づかなかった。

また注文決まったころに来るね。」


「あっ百合ちょっと待て…」




本当は気づいていたのに

気づかないふりなんかして

おまけに早口で

なんにも説明しないできちゃった。


でもあたしはあれ以上

成海が女の子と向き合ってる姿を

近くで見ることはできなかった。
















遠くから女の子と抱き合うのを見たときは

女の子なんか気にしてなかったのに

美人な子を連れてこんな店に来た成海を見ると

またあのどす黒い気持ちが

込み上げてきてしまった。















―ああ。




あたしきっと嫉妬してる。


成海のこと気にしすぎてる。









あたしはしばらくぼーっと考えていた。












あたしもきっと成海に

触れて欲しかったんだ。






抱かれたいわけじゃなくて、





ただ、




壊れ物を扱うように

大切にして欲しいんだ。








成海がベンチで女の子と抱き合うのは良くても


特別な女は作って欲しくなかったんだ。