「引っ越さないの?」

「え、あ…、うん…」

望の声で、
現実に引き戻される。

引っ越しも、
何度も考えた。

でも、

引っ越したら…

もし、
シュン君が帰ってきたら…

いつもそんな繰り返しで、
引っ越せないでいる。

嫌な思い出が頭の中でグルグルしだして、

ちょっとしんみりしながら、
視線をまな板から部屋に向けると。

「ちょっ…何してんの!」

台所からいつの間にか消えてた望が、
リビングにあったテレビゲームのソフトをあさってて、

「ねぇ、これやっていい?」

なんて、
子供みたいな目をして聞いてきた。