今度は真紅の火の玉が幾つも飛び出すと、ドラゴンを直撃し真っ赤な炎に包む。

 けれど、これは敵に塩を贈るようなものであった。

 炎の息を吐くドラゴンは火に対して親和性を持っていた。この魔物は余計に元気づき、かっと口を開くと炎の息を吐きかけてくる。
 
 再び慌ててかわし、ドラゴンの後ろに回りこんだメディアは絶望的な状況だった。
 自分の得意とする攻撃呪文をほとんど全部使ったというのに、まったく効き目がない。

(なんてバカみたいに丈夫なのよ! 雷を落とそうが、凍らせようが、火の玉を降らせようが、まったく平気だなんて。私の魔法も歯が立たないの。こんな巨大なドラゴンが相手では)

 巨大なドラゴン!

 不意に閃くものがあった。

(そう、その手があったわ)

 メディアは素早く頭の中でその手順をさらった。危険過ぎるし、力を消耗し過ぎる。限界まで力を振り絞ることになるかもしれない。失敗すれば後がなくなる。『力を限界まで使ってはいけない。命を縮めることになる』、常々教えこまれたことが思い出された。今まで、自分の限界に挑戦したことはない。その必要がなかったのだ。

 おまけに、その呪文を発動させるためには……。

 メディアは思わず生唾を飲み込んだ。でもその手しかドラゴンを倒せない。やるしかないのだ。逃げると言う選択肢もある。けれど、それは彼女の魔女としての矜持が許さない。