「もうすぐ、この家から出なきゃならないの」 「出る?」 「前から言われてたんだけどね……お父さんおかしくなったでしょ?働けなくなったし、家のローンもあるから、返すにはこの家競売に懸けるしかないんだって――」 高くて澄んだ千春の声は掠れていた。 涙染んで話す彼女の心境は、きっと僕が思っている以上に辛いものだろう。