クトロンと答えた老兵は、初めて厳しい顔から白い歯を見せて、答えた。
 「クトロン将軍・・・・・・、御高名は聞き及んでいます。いずれ戦場で、共に戦える日が訪れんことを」
キムンはクトロン将軍に背を向け、試験会場の扉の一つ「朱雀」へ向かって歩き出した。
その後姿には、腰の辺り水平にショートソード並みの小刀が装備されていた。
 そしてクトロンは、忍者用装具の中から、ダガーが一本無くなっているのを見逃さなかった。
 クトロンはこれ以上吸えないというくらい、胸いっぱいに空気を吸い込んだ。
そしてよりいっそうの大きな声で、号令が掛かる。
 「クンネ・キムン殿、準備整い候。立会人は入室の準備を。 では・・・・・・ 始めませいぃ! 」
号令の終わりと同時に、大太鼓が一度だけ鳴り響いた。
 開始の合図から数秒、キムンは太鼓の余韻を聞きながら、床にあぐらを組んで座り込んだ。
手のひらを上に、お腹の前で組むように体制を整える。
目は半眼に、瞑想というのか集中力を高めているようだった。
 その姿を眺めながら、クトロンは同じ立会人となるカムイの称号を持つカントに話しかけた。
 「ご子息は、不思議な感じがしますな。なんというか、こう・・・・・・。上手くは言えませぬが、期待させる。初回で、合格するやもしれませぬな」
社交辞令ではなく、クトロンの素直な感想だった。
 それに対してカントは、苦々しい顔で答えた。
 「試験管は、彼女でしょう? ・・・・・・。難しいと思います。 が、可能性はゼロではないと信じています」
 二人は挨拶を交わしつつ、青龍と白虎の扉へ分かれていった。
 二十メートル四方の正方形の部屋が、試練の間と言われる試験会場だった。
この国では目にしない建築方法で作られた建物は、はるか東方の国の技術らしい。
建物の全てが木材で作られ、様々な彫刻が施されている。
中央には部屋と対照的に、四本の柱で囲まれるように十メートル四方の空間が設けられていた。
 部屋の中心には、朱雀の方角に向き鎮座するひとりの女性の姿があった。
正座といわれる独特の姿勢で、腰には二本の長さの違う刀を携えている。
彼女の左手は刀の鞘へ、右手は軽く柄に添えられていた。
 立会人の二人が部屋に入ると、各々が扉から外れるように移動し、同じく正座をして正面を凝視する。