ふと目に留まった物があり、キムンは老兵に尋ねた。
 「すいませんが、向こうの離れて置いてある物も、使用してよいのですか? 」
老兵は少し驚いたような目をしたが、すぐに平静に戻り答える。
 「むう・・・・・・ それはかまわんが、そちらは忍者達の試験用であるぞ? 侍となれば、装備できる物は少ないと思うが、装備できるものであれば、好きに装備されるとよい」
 「そうですか。ありがとうございます」と、大きな声でキムンは白い歯を見せて笑って答えた。
キムンはてきぱきと、選定した武器と防具を揃えていく。その姿を、老兵は不思議そうに眺めていた。
そうなのだ、そもそも忍者の家系である蒼家から侍が輩出されることが稀であり、彼の剣技にしても侍のソレとは異質の物なのだ。
老兵は顎鬚を無意識に、触り始めていた。
「・・・・・・さん? ・・・・・・ましたよ? 」
老兵は気付かないうちに、妄想にふけってしまっていた。
 「あの? 準備が整いましたが・・・・・・」
キムンにそう言われ、やっと老兵は我に返った。
 「ゴホンッ・・・・」コブシを縦に口の前に運び、老兵は咳払いをし、背筋を伸ばしたのち、体の力を少し抜きキムンに囁くように言った。
「本当に、かのような装備でよろしいのか?」
そう言わせたのは、キムンの格好だった。
侍といえば、鎧兜に甲冑、それに具足に手甲を想像するのだが、キムンのソレはあまりにも場違いな格好だったのだ。
鎧は身に着けず、忍者装束のような軽装。頭には額当てというリング状の防具。足元は具足もなく、足袋と呼ばれる物だけを履き、手の甲と肘から下を守るだけの手甲のみの装備であった。
 武器に関しても、刀と呼ばれる物は見て取れず、ショートソード+2程度の小太刀が1本脇に挿してあるだけだった。
 試験開始の号令を掛けてよいものが、老兵はためらったが、キムンの目を見て余計なお節介をするのをやめた。
 キムンの目には、強い意志の力と闘争心が宿っていたからだ。
 キムンは頭を下げ、「失礼ですが、お名前をお聞かせ願ってよろしいでしょうか?」と、老兵に尋ねた。
 「ワシか? ゴホンッ・・・・・・、拙者の名は、侍大将がひとりクトロンと申す」