そして
10年の時間(トキ)が経ち

またあの季節が
やってきた。

日も暮れそうな
3月の冬
私はまた懐かしい
香りに気付いた。


「ハハッ!何だよそれ
バカじゃねーの
尚人っ!!」


「いやいや。
だってさぁ~」


遠くから聞こえる
聞き覚えのある
この声―…


どこか懐かしい香りと
一緒にやってくる


「てかっ明日テスト
周勉強してんの?」

「やんなくても俺
頭いいから!
お前と違って!!」

「なっなんだよソレー」

「ハハッ」


仲良く会話をしながら
私の前を
通り過ぎる―…


この香り…

この優しい声…

10年前の彼―…


そして気づかれる
こともなく
私の前を通り過ぎて
いく


10年前
彼がくれたハンカチは
風に飛ばされ
とっくに私の側には
なくなっていた


私に気づいて!!


私はずっとここで
咲いてるよ


前みたいに私に話し
かけてよ…


遠くなっていく
2人の声…

何も出来ない
私がいた―…




辺りは暗くなり
この道にも人通りは
なくなっていった



ザクッ ザクッ

静まり返った土手道に
芝生を歩く音が
聞こえた



?何の音?
足音…??

こんな暗くなってから
人が通るなんて
珍しい


【10年も想い続ける
なんてステキね】


!!!!



―えっ?!―

何??私のこと?
誰か私に
話しかけてるの??

【そうよ。あなたよ
かわいいお花さん】

!!!!!!



私の声………


聞こえるの?!


あなたは…?


【随分前からあなたを
知っています。
花にも生命があるとは
知っていたけど
人間に恋をするなんて
不思議なお花さんね】


そう言いながら私の
目の前で足を止め
しゃがみ込んで
ツンツンと指で軽く
たたいた


その人は…

いいえ人のようだけど
人じゃない
その女の人の背には
白くて柔らかそうな
羽根が付いていた