たどり着いたのは、小さな峠。
土方はおもむろに脚を止めて口を開く。


「ここなら誰も来ねえし丁度良いだろ。戦の下見も兼ねられるしな」

「まあ、肯定的に考えればそうですね」


和早は決して勝景とは言えない眺めをぼんやりと見ながら相槌を打つ。
今から聞かれるであろうことを整理しながらここまで来たからか、何だか酷く疲れた。

さながら意志の弱い捕虜の心境である。


「…で、話せるか。無理にとは言わない。話せる範囲でいいんだ」


土方は手近の幹に寄りかかると、こちらを伺うようにそう言った。


「話しますよ、全部。というか、土方さんなら調べはついていると思ってましたが」

「……探ろうと思えばそうできた。だが、どうやら俺は身内に甘いらしくてなァ」


放っておいた、と悪びれもせずに笑う。
つられて和早も自然と緊張が解れたように思えた。


「どこから話しましょうか…」


昔話をするのは好きじゃない。
なのに、何故か気分は悪くなかった。

言葉の続きを待つ土方を横目に、和早は淡々と己の過去を語り始めた…。