流華の楔





「…つーか、んなあっさり認めていいのかよ? 俺がお前にしてきたこと、忘れてるわけじゃねぇだろ」



ようやく口に出された言葉には少し、いやかなり呆れが混ざっていた。

それでも、こちらの気持ちに変わりはない。



「さあ、忘れました」

「あー……前々から思ってたが、お前相当変わり者だよな」

「人のこと言えませんよ土方さんも」

「くくっ…そうだなァ。お前を選んだくらいだ」



愉快げに笑い、和早の顔を覗き込むように首を傾ける土方。

短い黒髪がさらりと揺れ、早朝に似つかわしくない色香が漂った。



「……あの」

「ん?」

「さっきより距離が近い気がするんですけど…」



間近に感じる体温。

和早が一歩身を引けば、そのぶんを土方が詰める。



「ばーか。逃げんな」



優しい声音に惑った瞬間、手首と腰を捕えられ呆気なく引き寄せられた。



「な…」


いきなり視界が閉ざされたと思えば、唇に柔らかな感触があたる。

軽い、一瞬の口付け。

視界を覆っていた土方の顔が離れれば、和早は改めてその感触を思い出す。



「…っ」


何かが違う。

子供同士がするような口付けなのに。


今までにない感情が溢れるような。