流華の楔




土方は引きつったように笑いを浮かべ、前髪を掻き上げた。


「だ、だよな…。お前が階段から落ちるとか、良く考えたらあり得ねぇし…」

「考えなくてもあり得ませんけど」


と言いつつもこちらは落馬を鵜呑みにしたのだが、それは黙っておく。



「でもよかったぜ、無事で」


至極やわらかい表情で土方は言う。

その表情に昨夜の面影を見、和早はいくぶん戸惑った。



「……」


今かもしれない。

この機を逃せば二度と言えない気がした。



昨夜返せなかった「答え」と。

長らく内に秘め、今をもってようやく気付いた想いを。





「…土方さん」

「ん?」


土方が僅かに首を傾ける。


こうしてみると、月日を経るごとに艶美さを増したその容貌は、まるで老いを知らないようだった。