流華の楔





「そうやって、また逃げるのか」


出て行こうとする和早の手を掴み、引き留めた。

行かせない。
そんなこと、誰が許すものか。



「…戻るだけですよ。総裁補佐の葵に」

「駄目だ」

「戻ります」

「駄目だって言ってんだろ!」


手を引いて抱き寄せる。
傷に障らないよう、慎重に。



「婚約の話だって嘘だろ? 心は新選組と共にあるって言ったじゃねぇか!」

「それとこれとは話が別です。副長に陸軍奉行並の役目があるように、私にも相応の役目がある。今はそれに集中すべきです」



和早の本気に、言い返す言葉が見つからなかった。



「わかった…行け」

「ありがとうございます」



踵を返す和早。

引き留める権利はないが、これくらい言わせてくれ。




「なあ」

「…?」

「好きって言ったの、あれ嘘じゃねぇから」



和早は応えなかった。

少しだけ笑っていた気もするが、暗がりで良くはわからない。



…振られたのかもな。

なんとなくそう思いながら、土方は寝台に身を沈めた。