流華の楔




「仕方ない……坂本!」



和早の呼号が響き渡る。
それは、死んだはずの英雄の名。

存在するはずのない──。



「よっしゃ! やっと出番ぜよ~!」



意気揚々と走り出てきたのは、農民の格好をした土佐弁の男。
場の全視線がそれに向く。


「坂本龍馬、まかり通るぜよ~! がはははは!」


唖然。
目を擦る者有り、口が開いてふさがらない者有り。

とりわけ野次馬の間には未だかつてないどよめきが起きた。



「とうっ!」


龍馬らしき人物が和早の隣めがけて飛び翔け、華麗に着地。

決めの姿勢が妙に板についている。



「生きていたのですか坂本先生!」

「おお谷守…元気にしとったがか?」

「坂本、挨拶はいい」

「うぇ~苦しいぜよ和早~」


谷守に近づいたのも束の間、襟首を引かれずるずると後退する龍馬。

いやどんだけ、と皆思った。