流華の楔




沖田はふと疑問を抱いた。
何故政府は処刑を妨害した和早を捕えようとしないのだろう。


皆一様に顔を歪めたり身体を硬直させるばかりで、捕縛の指示さえだそうとしない。


彼女に何かあるのだろうか、と。



「谷守殿」


ようやく口を開いた和早。
谷守と呼ばれた若い男は筆を置き、何かと応えた。



突然現れた妨害者に取り合うなんて、さすがにおかしすぎる。



「(…知り合いなのか? 和早さんが、政府の人間と?)」



嘘だ。
信じられない。
信じたくない。
信じられるはずがない。

沖田は愕然として和早を見つめた。




「あなたが執拗に新選組の仕業だと疑っていた近江屋の一件だが、異議を申し立てる」



近江屋といえば、坂本龍馬が暗殺された場所で。

現場に原田の鞘が落ちていたという理由から新選組に坂本暗殺の疑いがかかった。


近藤が斬首を言い渡された主因がこれだった。




「異議? そんなもの唱えたところで無実の証拠など…」

「証拠ならある」


それが合図だったのだろう。

忍装束の男が「証拠」を引き連れて現れた。