流華の楔




和早は暫しの沈黙の後、口を開いた。


「…皆、戦ってます」

「知ってる」

「行かないと」

「駄目だ……俺には、あんたしかいない」



死なせたくない。

斎藤は頼りなげにそう言った。



「…そうでしょうか」



その瞳に映るのは、目の前のくだらない女じゃない。

斎藤が見ているものは別の誰か——亡くなった初恋の相手ではないのか。


だから、余計にそう思うのではないか。



「あなたが求めているのは、私じゃない」

「…違う」


消え入る嘆声。
それに反比例するように、背に回った腕の力が増した。



「…もう、いいんですよ」


自嘲的に笑う。

どうしてこうも、上手くいかないのだろう。