何故か沖田も参加し、妹に会って欲しいと願い出た隊士、中村と共に市中へと繰り出した一行。
「ここです」と中村が指さしたのはいつぞやの――確か、藤堂と来た甘味処だった。
「……あっ!」
悲鳴に近い声が聞こえ、若い女が走り出てくる。
「(あの時の娘か…)」
覚えている。
茶を一杯だけ注文した時に、頬を赤らめていた娘だ。
「幸、お前の為にわざわざお連れしてやったぞ」
「…も、申し訳ございません新崎様! でも…ありがとう兄さん!」
「礼なら新崎さんに言えよ?」
中村が言う。
殊の外妹思いのようで、幸と呼ばれた少女の喜ぶ顔を見て、満足そうに笑った。
それから、少しだけ幸と話をした。
中村のこと。
新選組のこと。
極僅かではあるが、話せるだけ話した。
珍しいことに、沖田は何も言ってこなかった。
時おり、小さな咳をするだけで――。
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